山内鮮魚店店長の山内です。先日、東京霞ヶ関で行われた「攻めのIT経営中小企業百選2017」の授賞式に出席してきました。
近頃、IoT(アイオーティー)という言葉を耳にする機会が増えたのではないでしょうか。IoT(Internet of Things)とは、モノのインターネット。様々なモノがインターネットに接続され、情報交換することで相乗効果というコトが生まれる仕組みで、現代を象徴する言葉です。
山内鮮魚店も、田舎の中小企業ではありますが、数年前よりITを活用し、業務改善と社内改革に取り組んできました。その過程でこのような賞を受賞できたことは、スタッフにとっても嬉しいニュースになったに違いありません。
今日は今回の賞についてと、ITを活用したことで変わった山内鮮魚店の「就業改革」をちょっとだけお伝えします。
攻めのIT経営中小企業百選2017 とは
「攻めのIT経営中小企業百選2017」とは、ITの効果的な利活用に積極的に取り組み、成果を上げている企業を三年で100社を選定し表彰するもの。ちなみに主宰は経済産業省と東京証券取引所。賞としては今年が最後の年となります。
簡単に言えば、ITツールを使って社内環境を整え、業績を上げた企業を3年で100社選ぼうというもの。ちなみにIT経営中小企業の他に、大手企業が表彰される「IT経営銘柄」も今回の表彰式で表彰されています。
そもそも山内鮮魚店が「IT」を活用したきっかけ
田舎の鮮魚店がIT経営?とちょっと驚く方もいらっしゃると思いますが(笑)私たちは3年ほど前からITツールを活用し、積極的に業務改善に取り組んできました。
ちなみに当社の業務形態は、以下の4部門で構成されています。
- 鮮魚店
- インターネット通販事業
- 営業部
- 製造部
ITを導入した主な部門は、鮮魚店を除く3部門。通販と製造と営業をITでつなぎ、業務改善し、残業を減らし、仕事をスムーズにしようというのが狙いです。なぜそんなことをし始めたのか。それは、今よりも楽に働ける環境をスタッフに提供したいと考えたからです。
社内の意思疎通がスムーズになれば、仕事上の煩わしい手間がなくなり、短時間で同じ成果が生まれ、残業もなくなるかもしれません。そして一日の仕事に「余裕」も生まれてきます。すると創造的な仕事にも取り組め、次第にやりがいが生まれ、結果として業績がアップする。三年前、そんなシナリオを描いたのが山内鮮魚店のIT活用のきっかけでした。
深刻化する人手不足に歯止めをかけたい
震災以降、我々の深刻な「人手不足」は、とどまるところを知りません。求人を出してもなかなか人が集まってくれない。特に若い人材の確保に悪戦苦闘する日々です。
それは、なぜでしょう。様々な本を読み、様々な方々に意見を伺いました。すると見えてきたのは若い世代のある特徴。それは「給料よりも休日の数、そして福利厚生を重んじる傾向がある」というデータです。モノが溢れ、成熟した情報社会の中で育っている彼らにとって、苦労せず環境が整っている会社で働きたいというのはわかる気がします。
ではもし、福利厚生や社内環境がちゃんと整備されていて、残業もなく、休みもたっぷりあって、やりがいが生まれやすい環境が作れれば、こんな田舎町でも働いてくれる人が留まってくれるのではないか。様々な企業が、人が集まらなくて困っているというが、そもそも人が集まりたいと思う環境を提供してないのではないか。ある時、そんな思いがこみ上げてきました。
そこで当面の目標として掲げたのが、IT活用による社内整備です。仕事にかかる手間を減らして余裕をもって取り組める環境作りを目指すことにしたのです。
手始めに取り組んだのが、あまりスキルがない人でも「気軽に運用できるIT活用」でした。ITといっても莫大な投資でシステム構築するわけではありません。プログラマーを雇い独自のシステムを作ったわけでもありません。当社がはじめたことは「自分たちでアプリを作り、自分たちで運用すること」です。
使えると思った時点からスタッフが変わりだす
当社が導入したのはサイボーズ社の「kintone(キントーン)」というクラウドサービス。このサービスの特徴は、自分で簡単に業務アプリが作れること。その簡単さは入社数ヶ月の新入社員でもできるほど。しかもクラウド上で動くため全員が最新情報を常に共有できます。月額使用料価格も安い。
Excelシートもそのまま吸い込んで、アプリが作れるのも魅力でした。今までほとんどのデータをExcelで管理していたものが、ほぼそのままアプリとして使えるようになりました。
とはいえ導入当初、社員の反応はいまいちでした。なぜならアプリに入れ込むデータを入力する「余計な手間」が増えるからです。もちろんその手間は必要です。アプリを作ってもデータがないのでは運用には乗りません。
社員にブーブー言われながら(笑)続けてもらって半年が過ぎた頃、社内の雰囲気も幾分変わってきました。「これ結構便利ですね、探す時間が短縮されました」など、さまざまな反応も出はじめました。これは使えるかもしれない。社員が自らそう感じた瞬間から山内鮮魚店のIT運用がようやく動き出しました。
水産加工の製造部門と営業をつなぐツールも開発しました。工場の出荷担当にiPadを持ってもらい、出荷マニュアルに沿って発送する流れも作りました。出荷管理もバーコードで繋ぎ、在庫もリアルタイムで把握できるようになりました。
おかげで昨年、サイボーズ社が主宰するkintone awardでグランプリをいただくまでになりました。
>>kintone award 2017 グランプリの記事はこちら
IT化の目的は、快適に仕事ができる環境づくり
IT化の目的は、仕事の量そのものを減らすこと。つまり快適に仕事ができる環境を作ることです。山内鮮魚店では、ITによる業務改善の目的を以下に掲げています。
- 残業を減らすこと
- リアルタイムで意思疎通ができること
- 社員が自分で意思決定できるデータを蓄積すること
- やりがいのある就労環境を整えること
IT化によりこれらの業務改善ができるなら、残業を減らし、快適に仕事ができ、社長や専務ではなくチームで運営していく環境を実現できると思っています。
そもそも、田舎では今までカリスマ的でパワフルな社長がトップダウンで経営する会社が多いのも現状です。そこに社員がチームを作り意思決定できる環境を提供できれば、アイディアが生まれ、人が育ち、業績が上がり、給料も上がり、社員の人生も豊かになるはず。
誰だって会社のために働いている人間はいません。休日は家族で旅行に行きたいし、堂々と人生を謳歌したい。会社は労働力をいただく代わりに、人生を豊かにする手助けをする。そんな時代になってきたのを改めて感じます。時代は実に目まぐるしく変わりますね。
山内鮮魚店の現在の就業体制
現在、山内鮮魚店ではIT化により、さまざまな業務改善が結果として表れ、今では就業体制そのものの改革を進めています。それが下記の内容です。
- 残業がゼロになった
- 残業経費が浮いた分を、社員の福利厚生(団体保険)に充てた。
- 2017年4月から、全部門を完全週休二日制にした
- クリエイティブな部門には、労働時間に縛られない裁量労働制を導入
歯医者に通うスタッフからの要望で、有給も半日単位で取得できるようにしました。それらすべての改革をファイナンシャルプランナー、社労士の方に実際に来社いただき、全社員に通達しました。社員の中には「そこまで会社がやってくれるんですか??」という声まで出始めました。その声が一番嬉しいですね^^
すると不思議なことが起きたのです。今まで苦労していた「求人」も応募が増えてきました。仕事を探している人たちが、当社が整備した環境に反応し、選択のひとつとして考えてくれるようになった証だと思います。
人口が都市部に集中する昨今、これから地方企業はよほどの危機感をもって経営をしなければならないかもしれません。南三陸町という人口15000人にも満たない田舎に会社を構え、微力ながら町の雇用に関わる会社として、これからを支える若い人材の確保は必要不可欠です。